2016年、「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」で最優秀賞を受賞した岩本悠さん。受賞をきっかけにチームを再編し、まさにこれから全国に拡がっていこうとしているプロジェクトの今を追いました。前後編でお届けします。

「言うだけ言ってみる力」で実現した強力チーム

――岩本さんは2006年に島根県隠岐郡海士町(あまちょう)へ移住し、統廃合による消滅の危機にあった隠岐島前(おきどうぜん)高校を「魅力化」することで町の過疎化に歯止めをかけ、地方創生につなげられました。現在、どのような活動をされているのかご紹介いただけますか?

岩本:
島前高校では魅力と活力ある高校づくりのために、生徒・保護者・教員からのアンケートやヒアリング、各町村をまわっての住民、議会との意見交換会などを重ね、魅力化構想を作りあげました。その後は島根県、島前高校、島前三町村等の関係機関が連携し、地域全体を学びの場とすることで、地域自体を活性化していきました。その結果、隠岐島前高校は国内外から生徒が集まるまでなりました。現在は、その取り組みを全国に増殖・普及していく活動に取り組んでいます。
【一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」共同代表 岩本悠さん】
──受賞から約半年後の2017年3月10日、
一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム
が設立されました。代表理事に元リクルートキャリア代表取締役の水谷智之さん、共同代表に認定NPO法人カタリバ代表の今村久美さんを迎えた強力な布陣ですが、この3頭体制に至る過程はどのようなものだったのでしょう。

岩本:
今村久美さんとは教育関係の活動という共通項を通して以前から交流があり、魅力化プラットフォームにも加わってもらいました。水谷さんとは、海士町の取り組みについて知りたいと連絡をいただいてからのお付き合いで、イノベーター支援制度に申請した際の推薦状もお願いしています。

 水谷さんは経営に対する嗅覚、物事を構造で捉える見方が素晴らしい。ぜひチームに加わってほしいと、受賞後に今村さんと2人で直談判し、現在の布陣が実現しました。

 日本財団からの支援(最大で年間1億円×3年)に加え、水谷さんの加入が決まり、これはスゴイことになったぞと思いましたね(笑)。
【一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」代表理事 水谷智之さん】
水谷:今村さんも悠くんも「言うだけ言ってみる力」が非常に強い(笑)。2人とも、たとえ勝算がなくてもやってみるというバイタリティーを持った人たちです。僕は1〜2週間時間をもらい、代表理事になる提案と併せて承諾の返事をしました。今村さんは学校現場の限界を感じて島根外・学校外のフィールドで必要なものを追い求めてきた人。悠くんは学校行政そのものと関わって教育委員会を動かし、信頼とネットワークを築いてきた人。そして僕は人材ビジネスの世界で大人の社会から学校の在り方を見てきた。

 3人がどう機能するかわからないけど、誰かが全権を持つより3頭体制をとることがそれぞれの持ち味を最も活かせる形だと考えました。さらに、始動期には、社会にどう認知させていくか、応援団をどう作るか等々、本来の活動以外にすべきことが多い。活動自体を引っ張るのは悠くんであることは今もこれからも変わりがないわけで、彼の力を最大限に発揮するには、僕が当面の代表となり、本来の活動以外のことを担うのが最適というのが僕の考えでした。

──水谷さんは島根県に本拠を移されました。そこまで心を動かしたものは何だったのでしょうか。

水谷:
公立高校は県の管轄下にあります。県は過疎地域に資源を分配するより、統廃合で生産性を上げたい。大きな単位の責任としてそういう力学になるのは当然です。高校教育の改革を進めようとしたら、普通はあきらめるか、小中学校や私立学校という別の次元から始めるかのいずれかの道を選ぶでしょう。ところが悠くんは真正面から高校に向き合い、炭鉱夫が金を掘るかのように一人黙々と「公立高校と地域」という最も折り合いの悪い組み合わせに挑んでいた。
【島根県立隠岐島前高等学校での岩本さんの取り組みは書籍にまとめられている。
『未来を変えた島の学校――隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦』(岩波書店)】
水谷:一方、企業の採用の現場で社会の求める資質と学校教育が与えうるものの隔たりを日々感じていた僕の関心は、公教育に向いていました。当時、いろいろなオファーがありましたが、彼がやろうとしていること以上に価値のあるものは見出せなかった。

僕は現場の空気感を知らずには仕事ができない性分ですから、島根に生活の拠点を移すことに躊躇はなかったですね。

ビジョンとスタンスを決める徹底的な議論

──一般財団法人立ち上げまでの経緯を教えていただけますか?

岩本:
教育改革を目指すとき、タッグを組む相手は学校や行政です。財団法人にしたのは、彼らから見て信頼性が最も高い形態と判断したからです。設立に当たって最も長い時間を費やしたのは、ビジョンやスタンスの言語化です。
岩本:われわれは背景も経験値も異なるメンバーが集まったコレクティブな組織です。土台となる理念や骨格がしっかり決まっていないと空中分解するリスクが大きい。3人と島根県教育委員会のメンバーで徹底的に議論した結果、大切にするスタンスとして、「主体性」、「協働性」、「学び続ける姿勢」の3つを掲げることにしました。

なかでもこだわったのが主体性です。何かを改革しようとすると、人はどうしても「変えてやる」という考えやおごりを持ちがちです。でも、そういう視点で関わったら絶対にうまくいきません。子どもたちの意志や主体性、協働性を育てるために大事なことは、現場に「このやり方ならうまくいく」と押し付けるのではなく、関わる大人たち自身が本当の意味で意志を持ち、主体的に方法そのものから考えることです。

「現場の意志を何より尊重する」ことを基本スタンスとして決め、言語化できたとき、ようやくプロジェクトが進む実感を得ました。


【後編へ続く】

岩本悠
1979年、東京都生まれ。大学時代にアジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡り、その体験を『流学日記』(文芸社/幻冬舎)として出版。その印税等でアフガニスタンに学校を建設。卒業後、ソニーに勤務。その傍ら、学校・大学における開発教育・キャリア教育に取り組む。06年に島根県隠岐郡海士町に移住、「魅力化プロジェクト」として隠岐島前高校の活性化に取り組む。15年より島根県教育庁教育魅力化特命官。


水谷智之
1988年、慶応義塾大学商学部卒業。(株)リクルート入社。以来、一貫して人材ビジネス領域に携わり、求人情報誌『Tech-Bing』『週刊ビーイング』編集長を経てインターネット転職サービス「リクナビNEXT」を立ち上げる。(株)リクルートHRマーケティング代表取締役、(株)リクルート取締役、(株)リクルートエージェントCOO、同代表取締役社長、(株)リクルートキャリア初代代表取締役社長を歴任。07年からは社会起業家育成にも取り組み、「社会イノベーター公志園」の立ち上げと運営に携わる。


岩本悠さんも登壇! 11月18日(土)の分科会「
ソーシャルイノベーションの本質