2016年、「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」で最優秀賞を受賞した岩本悠さん。プロジェクトをより加速していくために、受賞から約半年後、代表理事に元リクルートキャリア代表取締役の水谷智之さん、共同代表に認定NPO法人カタリバ代表の今村久美さんを迎え、
一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム
を設立しました【
前編はこちら
】。全国の教育現場が抱える課題を解決するためにどんな活動を展開していくのか。後編ではプロジェクトの未来に迫ります。

教育現場の「見える化」が社会を変える

──一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げてからの具体的な活動はどのようなものでしょう。

岩本:
今年度の事業として主に進めているのは
(1)課題発見解決型学習(プロジェクト学習)の推進・支援
(2)魅力化のビジョン・チーム育成プログラムの開発・提供
(3)魅力化に関する知見と価値の見える化
の3つです。
【一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表 岩本悠さん(写真左)】
岩本:(1)「課題発見解決型学習(プロジェクト学習)の推進・支援」は、地域社会の課題を自ら見つけ、他者と協働しながら課題解決型学習を推進していくもので、具体的には、島根県のプロジェクトに取り組む高校生を中心に、教員、コーディネーターたちが交流し、学び合う機会として7月15日〜17日に合宿を行いました。その内容をそれぞれ現場に持ち帰り、10月7日〜9日に再度合宿を開催。その成果を生徒が発表し、地域や行政、民間などとこの学びの価値を広く共有するために、2018年2月に島根県大会、3月に東京で全国大会を開催します。これは、今までカタリバが取り組んできた高校生の学びの祭典「マイプロジェクト・アワード」を更に進化させていくもので、来年はより大規模な大会になる予定です。

(2)「魅力化のビジョン・チーム育成プログラムの開発・提供」の対象は大人たちです。7月1日〜3日に開催した「教育魅力化チーム推進プログラム 〜スタートアップ合宿」には、教育や高校の魅力化に取り組む10の市町村の教員や行政職員、地域住民、コーディネーターなど40人と、県の教育委員会のスタッフが10人程参加しました。立場や肩書きを超えた本音の対話の中で現場の現実を浮かび上がらせ、そこからテーマやプロジェクトを設定していくというのが合宿の流れです。合宿は大成功でした。

9月に行われる2度目の合宿を経て、11月3日に松江で開催する「シンポジウム」では、広く知見を共有するとともに各プロジェクトを飛躍させるために、それぞれの課題解決に必要な専門家や関係者を全国から招く予定です。今年度は県レベルでのプラットフォーム的コミュニティをモデル的に作り、最終的に全国規模の共学共創のプラットフォームを作っていくというのが目標です。

完成したプラットフォームに乗ってもらうのではなく、多くの関係者が主体的に参画し対話する場を提供し、その中から社会を大きく動かすプラットフォームの形を生み出していきたい。こうした活動の中から日本の教育システム全体にインパクトを与えうるテーマも立ち現われてくると思っています。

(3)「魅力化に関する知見と価値の見える化」に関しては、島根県で取り組んできた知見をまずは現場の皆さんに還元するために「参考書」の試作版を作りました。
【2000部限定で発行した「しまね高校魅力化参考書 2017」】
水谷:(3)「魅力化に関する知見と価値の見える化」については、魅力化による子どもたちの変化や成長の評価、地域への影響の評価の数字化という大きな課題もあります。これは非常に難しい。でも簡単にあきらめるべきことではないとも思っています。7年分の卒業生のデータを持つ海士町で始めています。ノーベル賞を獲るくらいの覚悟で悠くんにぜひがんばってもらいたい。

一方で、「見える化」に関して言えば、高校生がそれぞれのプロジェクトを発表する舞台である「マイプロジェクト・アワード」も非常に効果的な「見える化」だと考えています。高校野球は、高校生たちの戦いの場ではあるけれど、戦う球児の姿から、ひたむきにがんばることの大切さや不条理を乗り越える強さの必要性を大人が感じる場になっている。

それは教育現場においても同じです。子どもたちが地域社会の課題と戦い、その過程を通して大きく成長していく姿に大人が共感、共鳴し、認識が変わる。大人に対するシーンの「見える化」も、社会を変える可能性があります。
【一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム  代表理事 水谷智之さん】

海外への拡散や島留学も視野に

──最後に、長期的な展望を教えてください。

岩本:
マンパワーさえあれば、やりたいことは山ほどあります。ひとつは海外へのスケールアウト。僕は、島根の例は日本全国だけでなく、海外でも応用可能だと直感しているので。まずはブータンで取り組みを始めているところです。

もう一つが地方留学や国内留学です。これは地方創生やグローバル人材の育成だけでなく、子どもの貧困への解決策にもなり得る。家庭での教育力不足を少人数制の地方の公立学校で補えれば、親から子への貧困の連鎖が断ち切れる可能性があるからです。人手も資金も足りず手がつけられていませんが、まずは自治体や個人への意識調査が必要でしょう。
【隠岐島前高校の外観(提供:一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム)】
水谷:足りていない人手を補うために、3人ほどスタッフを募集しています。求めているのは主体的で協働的、そして学び続ける姿勢のある人。まさにプラットフォームが大切にする3つのスタンスを持った人です。能力や背景は問いませんが、いろいろな枠を越えることの困難さを経験している人でないと難しいかもしれません。可能性が1%でもあれば会う用意があるので、ぜひ奮って応募してください。

岩本悠
1979年、東京都生まれ。大学時代にアジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡り、その体験を『流学日記』(文芸社/幻冬舎)として出版。その印税等でアフガニスタンに学校を建設。卒業後、ソニーに勤務。その傍ら、学校・大学における開発教育・キャリア教育に取り組む。06年に島根県隠岐郡海士町に移住、「魅力化プロジェクト」として隠岐島前高校の活性化に取り組む。15年より島根県教育庁教育魅力化特命官。


水谷智之
1988年、慶応義塾大学商学部卒業。(株)リクルート入社。以来、一貫して人材ビジネス領域に携わり、求人情報誌『Tech-Bing』『週刊ビーイング』編集長を経てインターネット転職サービス「リクナビNEXT」を立ち上げる。(株)リクルートHRマーケティング代表取締役、(株)リクルート取締役、(株)リクルートエージェントCOO、同代表取締役社長、(株)リクルートキャリア初代代表取締役社長を歴任。07年からは社会起業家育成にも取り組み、「社会イノベーター公志園」の立ち上げと運営に携わる。