従来のシステムにとらわれない、自分たちや次の世代がもっと自由に生きていける新しい社会システムを創ろう。この理念のもと、2016年から「脱東京」を掲げ、地方での起業を促進するべく岩手県遠野市をはじめ全国各地で
Next Commons Lab
をスタートした。2016年に日本財団ソーシャルイノベーター支援制度で優秀賞を受賞してから1年が経った今、代表の林 篤志さんに、活動状況や今後のビジョンについてお聞きしました。

全国各地の地方を拠点に「新しい社会システム」を創る

――「Next Commons Lab」(以下「NCL」)は、「ポスト資本主義社会の具現化」を目標に、都市部から起業家を募集し、地方に潜在するリソースを使った事業創出や、自治体向けのコンサルティングなどを行なっています。さらに今後は廃校などの遊休施設を使ったネットワーク化事業、仮想通貨(地域通貨)の発行事業もスタートさせるとお聞きしました。これらを踏まえ、林さんの考える「ポスト資本主義社会」の具現化とは、どういったものなのでしょうか。


林:
「ポスト資本主義社会の具現化」って、それだけ聞くと雲をつかむような話ですよね。実はそれを謳っている僕自身も、実は半分見えていないような状態なんです。ひとつ言えるのは「新しい社会のシステム」を創ろうということ。僕たちは誰もが国家に属していて、グローバル経済の中で生きています。
 最近はますます広がる格差を目の当たりにし、多くの人が社会を変革しなくてはならないと思っているし、そういった声をよく耳にします。しかし、社会は容易に変わらない。2011年3月11日に起こったあの東日本大震災を経験してもなお、社会のあり様がダイナミックに変わることはありませんでした。
 だったら変えるのではなく、新しく創ればいい。国家やグローバルな資本主義経済はそれとして存在するうえで、生きていくための他の選択肢があっても良いと思うのです。その選択肢として「新たな社会システム」を創ろうというのが「NCL」のミッションです。
【一般社団法人「Next Commons Lab」代表、林 篤志さん】
――そのための舞台に地方を選んだ。現在、「NCL」は林さんが拠点としている遠野市の他、全国10カ所で活動されていますが、これは国の掲げる地方創生や地域活性とも重なりますね。

林:
遠野だけを見ても「NCL」の募集を介して14人の若い起業家が移住し、地場産のホップを使ったビール醸造や、伝統的な発酵技術を利用した発酵プロジェクト、地元の農家をパートナーにした里山経済プロジェクトなどに取り組んでいます。
 資本主義経済の浸透した東京と比べると、地方にはまだまだ“余白”がある。安く使える土地や空き家も多いし、可能性のある資源がたくさん眠っている。決して地方創生が目的のプロジェクトではないのですが、一方でそういう役割を担わせていただいていることは自覚しています。

地域に溶け込むのではなく、そこに新しいコミュニティーを重ね合わせる

――遠野をはじめ10カ所の活動拠点はどのように選択されたのですか。

林:
基準は「場所」ではなく「人」ですね。僕を含めて「NCL」で動いている人たちは「どこで」ではなく「誰と何をやるか」を優先しています。僕が遠野に移住したのも、ここに友人がいたから。彼らとなら何かができそうだという可能性を感じたんです。
 また、昨年のソーシャルイノベーター支援制度の受賞以降、「NCL」のスキームを利用したいという自治体が増えたので、そういったお声がけをいただいて拠点を増やしているところです。3年後の2020年には1,000人の起業家を集めて100カ所の「NCL」を立ち上げる。そして、売上100億円の産業を創出することを目標としています。

――地方に移住するというと、地元の人たちとの関係性が大切になってきますね。

林:
地方でビジネスを始めようとすると、「そんなのうまくいくの?」など周囲にいる人たちのさまざまな声が起業家の耳に入ります。そんな外的なプレッシャーに惑わされ、「本当にこれでいいのだろうか」と本人もブレてしまう。そうならないよう、伴走してサポートしていくのが「NCL」の役割です。
 僕たち「NCL」事務局の常駐スタッフの仕事は、コーディネータ―として地元の人たちと起業家との間を調整することです。もちろん、地域には地域の作法というものがある。都市部であればお金で物事が進むようなことも、地方では一緒に草刈りをするとか祭りに参加するといった、身体的感覚や空間的共有による信頼性、関係性の構築がとても大事になってきます。
 ただし、「地域にすっかり溶け込む」必要があるかといえばそうではない。地方の地縁・血縁といったコミュニティーも衰退傾向にありますし、いずれは崩壊してしまうかもしれないものに順応するより、既存のコミュニティーに新しいコミュニティーを重ね合わせて、良い意味での摩擦を起こしながらお互いが共存できる仕組みをつくるのが大切です。
【月1回、NCL事務局と起業家が集まる定例会「オープンラボ」の様子】
――「新しいコミュニティー」とは、具体的にどんなものでしょうか。

林:
僕たちはそれを「拡張家族」——共通の価値観を共有した集団と呼んでおり、例えば、遠野では先述した14人の起業家がひとつの新しいコミュニティーとなっています。
 これからの時代は、自分がどんなコミュニティーに属しているかが重要です。できれば複数のコミュニティーに属して、多重層的に生きていくことが理想です。住む場所も土地で選ぶのではなく、コミュニティーで選ぶ。そうやっていくうちに、時間や場所に左右されない働き方や、暮らし方ができるようになってくるだろうし、仮想通貨による独自の経済圏といったものも生まれてくるのではないかと考えています。

――「NCL」では起業家を募集しています。遠野の場合は83人の応募がありました。選考に際して大切にされていることは何ですか。

林:
その人が自分のプロジェクトを通じてどんな社会を創りたいか、何を目指しているのか、を重要視しています。「NCL」の場合は企業の人材募集とは違って、私たちのプラットフォームを活用して、起業を促すというシステムですから、どれだけ当事者意識を持てるかも大切ですね。
 応募される方々は、根っからの起業家というよりは、会社や団体など、今自分が属している巨大なシステムから脱却したいという思いを持つ人が大半です。資金面については、最初の3年間は、年間400万円の補助金が出る総務省の「
地域おこし協力隊
」の制度を活用し、助成金を起業家たちの基本所得補償として使い、支援を行なっています。
 新しい社会システムを創るといっても、既存のオールドセクターと関わりを持たないというわけではないので、良い仕組みがあればどんどん活用していきたいですね。

旗を掲げることで、知恵やツールが集まってくる

――昨年の日本財団ソーシャルイノベーター支援制度での受賞も大きかったのではないでしょうか。

林:
支援制度に申請したことで、自分たちが考えていることをあらためて整理する機会を持てました。フォーラム当日、プレゼンで「ポスト資本主義社会」なんて抽象的なことを言っているのは僕たちだけで(笑)。他の皆さんは例えば「子どもの貧困」とか「高校の改革」とかすごく具体的なことを語っていて、事実、僕たちのブース展示の反応もイマイチだったんです。
 それでも、フォーラム自体が「にっぽんの将来をつくる」といったスローガンでしたし、自分たちはその先頭を立っていると思っていました。実際に受賞して、やはり社会的にも時代的にもそういう流れがきているんだという自信になりましたね。遠野に関しては、受賞から1年経って30パーセントから40パーセントくらいはプロジェクトが進んだ感じです。あくまで感覚的な手応えですが。

――「NCL」の今後についてお聞かせください。

林:
まずは現在の10カ所から、100カ所での展開を目指して現在の活動を続けていきます。自治体と連携して複数のプロジェクトを動かすというスキームが、20〜30カ所くらい。残りはそれよりも小規模で進むと思います。
 その中で「新しいコミュニティー=拡張家族」も出来上がっていくでしょうし、廃校や、地方大学を使った共同使用によって、「時間や場所に左右されない働き方・暮らし」や、仮想通貨によってコミュニティー内での小さな経済圏も生まれる。また日本にとどまらずアジアにも活動の輪を広げる予定で、すでに台湾ではプロジェクトが始動しています。

――代表である林さんご自身はどう活動されていきますか。

林:
僕の役割は、ある意味「大ボラを吹いて旗を掲げること」だと考えています。もちろん僕の中には根拠や戦略はありますが。「ポスト資本主義・新しい社会システムの構築」なんて誰も想像できないようなことを口にしていますが、それによってソーシャルイノベーターに選んでもらえたわけですし、走り続けることで、まわりに人が集まってきてくれて、「こういうふうにやればいいんじゃないの」と知恵やツールを提供してもらえるようになりました。チームにはこういう役割の人間が1人は必要だと思うんです。今のスタンスを大事に、引き続き「NCL」のビジョンを伝えていきたいと思います。
林 篤志(はやしあつし)
「Next Commons Lab」ファウンダー。1985年、愛知県一宮市生まれ。高専卒業後、エンジニアを経て独立。既存の教育とは異なる人が生きるうえで必要な広義な意味での「教育」に着目し、2009年「自由大学」立ち上げに参画。2011年、高知県の土佐山にNPO法人「土佐山アカデミー」を共同設立。多くの起業家の定住、起業に貢献する。2016年、全国規模での新たな社会システムの創出を目的に「Next Commons Lab」を設立。各地の自治体、民間企業と連携し、全国で同時多発的に起業プロジェクトを進行中。2016年、「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」においてソーシャルイノベーターに選出される。


林篤志さんも登壇! 11月18日(土)の分科会「
ソーシャルイノベーションの本質