アイドルグループ・でんぱ組.incのセンターを務め、歌って踊れるゲーマーアイドルとして人気の古川未鈴さん。彼女は過去、いじめや引きこもりを経験したことを公表しています。誰もが生きづらさを抱えがちな現代、古川さんはいかに辛い過去から立ち直り、アイドルとして成功をおさめたのか。その半生から、「輝ける自分の見つけ方」を探ります。

転校で自分を“リセット”していた少女時代

--幼い頃はどんな少女でしたか?

古川:
昔から「いじられキャラ」で、何を言われてもめったに怒らないから、いじっても大丈夫と思われてしまう。それがエスカレートして、いじめになっていくことがよくありました。
 ただ、小学校時代までは父親の仕事の関係で2、3年に1回のペースで引っ越しをしていたので、いじめが段々ひどくなってきて、「ああ、大変なことになってきた」と思う頃に引っ越しできるのは、助かっていましたね。

--冷静に自分の状況を見つめていたのですね。
古川:
引っ越しですべての人間関係がリセットでき、私の過去を知る人は誰もいない場所に行ける。引っ越し先で1からキャラを作り直せるから、次の学校ではもっとうまくやろう、明るめの子が集まるグループに入って楽しい学校生活を送ろうと思っていましたが、なかなかできなかったです(笑)。
 中学校の3年間は引っ越しがなかったので、本格的にいじめを受けました。

--具体的に、どのようないじめだったのですが?。
古川:
主に女子からだったのですが、上履きを隠されたり服にイタズラされたり。でも、性格だったのかやっぱり私はその時も怒れなかったですね。
 心の中ではとても辛かったけれど、部員5人でこじんまりと活動していた吹奏楽系の部活が大好きで、そこに参加するため学校に通い続けました。大好きなクラリネットも吹けるし、安息の地だったんです。
 それに、学校を休むのも恥ずかしかった。「アイツ傷ついてるんだ」「アイツへこんでるんだ」と周囲に思われるのがイヤで。そういう弱さを見せたくなかったから、逆にヘラヘラして、「別に何とも思ってません」という感じで振る舞っていました。
【でんぱ組.incの古川未鈴さん】
——辛かったですね。親御さんも心配されたのでは?
古川:
いじめのことは、当時、親にも言っていませんでした。私は相当負けず嫌いだったのだと思います。
 それに、ある種の「逃げ場」があった。部活もそうだし、家に帰るとインターネットに夢中になって、顔も年齢も知らない人たちと、毎晩チャットをしていました。キーボードを叩きながら延々と会話するのが楽しくて、パソコンの画面の向こうに人がいるというのが、当時の私にとって画期的な体験だったんです。
 あとは、大流行していたあるオンラインRPGのゲームに夢中になって、プレイヤーが集まって会話する「たまり場」のようなスペースに入り浸っていましたね。そこで私より年上のプレイヤーと交流する中で、インターネットでの立ち居振る舞いやマナーを学べました。

脱・引きこもりからアイドルへ

--高校を半年で退学し、それから引きこもりになったと伺いました。
古川:
実は、高校入学と同時に始めたお寿司屋さんのアルバイトは続けていたので、完全な「引きこもり」ではなかったんです。
 当時、バイトをしていたのは理由があって。中学でいじめられ悔しい思いをしていた時、自分と年が変わらないアイドルがテレビで歌って踊っているのを見て、私もテレビに出てキラキラできたら、いじめてきた人たちをギャフンと言わせられるかもしれない。そして、アイドルを目指すには色々なレッスンが必要だろうと。小さい頃に新体操やクラシックバレエを習っていたので、直感的にお金がかかると考えたのだと思います。
「働きたいから高校を辞める」と告げた時、父は激怒しました。働くといってもアルバイトでしたし、当たり前ですがきっと心配していたんでしょうね。半ば押し切るような形で高校を自主退学したので、申し訳なかったと思っています。

--目標だったアイドルには、どのようにしてなられたのですか?
古川:
ネットゲームを一通りやり尽くしたあと、ゲームセンターの存在を知って頻繁に外出するようになりました。「ビートマニア」や「ダンスダンスレボリューション」といった、いわゆる音ゲーにハマってしまったんです。
 ゲームセンターにも、ネットと同じようにさまざまなバックボーンを持つ人がいました。常連さんは年上の男性が多くて、私は最年少という感じです。ゲームという共通項で集まると自然と会話が成立するから居心地も良く、数年ぶりに現実世界で人と向き合う経験ができました。
ゲーセン通いと並行して、芸能関係のオーディションを受け始めましたが、からっきしダメで、「向いていないのかな……」と落ち込みました。ちょうどその頃、秋葉原のメイド喫茶が注目を浴び始めていて「メイド喫茶に行ったら、何かチャンスがあるかもしれない」と、本格的に秋葉原の世界に飛び込みました。
 メイド喫茶で働いたのは、とても良い経験になりましたね。あの頃の私は必ずしもコミュニケーションが上手くはなかったけど、接客で「メイドになりきる」ことは楽しかったですし、ホームページで自分の写真を載せると、自分のことを応援してくださるお客様が少しずつ増えたのも嬉しかったです。
 しかし、「このままではアイドルにはなれない」と別の道を模索し、メイド喫茶の同僚だった女の子に誘ってもらって当時立ち上げ準備をしていた「秋葉原ディアステージ」に参加しました。そこで今のでんぱ組inc.の前身となる「でんぱ組」というグループが結成され、2008年からアイドルとしての活動をスタートさせました。

過去をまっすぐ見つめて、今に活かす

——アイドルになってから、どのようなことを意識していますか?
古川:
昔から「歌とダンスで魅せられるアイドル」に憧れているので、やはりライブパフォーマンスは大切にしたいと考えています。ライブの他にも、今はSNSを使えばファンの方との接点もたくさんありますが、例えば熱がある体温計の写真を撮って、「こんなに熱があるんですけれど、明日会いにきてください!」みたいなやり方はちょっと……(笑)。もっと正々堂々と勝負できる自分でいたいですね。
【でんぱ組.inc 幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備! / 撮影:BOZO】
——負けず嫌いな古川さんらしいですね。アイドルを続けていて辛いことはありませんか?
古川:
念願かなってなれたアイドルですから、精神的に辛いと思ったことは本当に一度もありません。ただ、自分の弱点にぶつかる瞬間はこれまでに何度もありました。例えば、握手会で時々“無の状態”になっていることがあるらしく(笑)、「気を抜かないように」と事務所のスタッフさんに言われたり、あと自分の言葉でうまく話せないことにずっと悩んできました。
 学校でクラスメートとあまり話したことがなかったうえ、ネット上やゲーセンで話していたのはゲームの話題ばかりで。そのせいかエレベーターで人と一緒になった時にするような世間話が本当に苦手で、「目の前にキーボードがあればなんでも話せるのに!」と歯がゆい思いをしていました(笑)。
 だから会話術の本を読んだり、とにかく人を話すようにしたりして、話すための訓練をしたんです。ワクワクする出来事に遭遇した時、「楽しい」という言葉を使わないでそのおもしろさを伝えるにはどうしたらいいか、など。ここ最近になって、ようやく自分の気持ちを的確に伝えられるようになったと思います。

——言葉にするのは、大切ですか?
古川:
とても大切だと思います! この仕事をしていてたくさんの人から印象的な言葉をいただいたんですが、以前、プロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子氏)から「夢は言葉にしなさい」と教えられたのが忘れられません。
 実際、でんぱ組を結成したり、ゲームのお仕事をいただいたりした時も、無意識に「やりたい」と口にしていたから叶ったんだと思います。日常の些細なコミュニケーションでも同じことで、言霊ってきっと存在するんじゃないかと思います。

--今、いじめに悩んでいる人へのメッセージをお願いします。
古川:
そうですね……。まさに今、辛い想いの中にいる人に言葉をかけるのは、とても難しいことだと思うんです。
 何度も言いますが私はけっこう負けず嫌いだったので、中学校の時にいじめられていた過去が少し違っていたら、悔しさをバネにこうしてアイドルになることもなかったかもしれない。2014年にでんぱ組.incとして初めて武道館に立った時、「自分がやってきたことは間違っていなかった」とMCでお話しさせていただいたのも、そう。時間が過ぎたからこそ向き合える経験があるのではないでしょうか?
【でんぱ組.inc ワールドワイド☆でんぱツアー 2014 in 日本武道館 ~夢で終わらんよっ!~ / 撮影:チェリーマン】
 あと、今は「逃げ場」がたくさんあることも知ってほしい。学校に行かなくても、フリースクールやホームスクーリングなど学べる場所はたくさんあるはずだから、辛かったら逃げていいんです。
 逃げた経験は、きっと将来役に立つはずです。今、私はゲームに関連するお仕事をさせていただく機会が多く、この秋も海外の有名なゲーム会社を訪問させていただきます。10代の頃、ゲーム三昧だった毎日が今は自分だけの個性になったから、自分にとってピンとくるものを大切にしてほしいですね。
古川未鈴(ふるかわみりん)
でんぱ組.incのセンターをつとめる、歌って踊れるゲーマーアイドル。新体操、クラシックバレエの経験をいかしダンスリーダーでもある。コンシューマーからアーケード、ネットゲームまで幅広く網羅し、ゲーム番組のMCとしても活躍している。

でんぱ組.inc(でんぱぐみいんく)
「ディアステージ」に所属する、古川未鈴、相沢梨紗、夢眠ねむ、成瀬瑛美、藤咲彩音の5人組ユニット。アニメ・漫画・ゲームなどの趣味に特化したコアなオタクでもある。ワールドツアーを行うなど国内のみならず海外からも人気を集める。2015年、MTV「ワールド・ワイド・アクト賞」の日本部門「ベスト・ジャパン・アクト」のウィナーに。2017年1月に、アリーナツアー「幕神アリーナツアー2017電波良好 Wi-Fi 完備!」6公演を開催、二度目となる日本武道館公演もおこなう。2017年8月に、現5人体制となる。

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