障害者だって恋愛もするしセックスもしたい。そんな当たり前の真実を描いた映画『
パーフェクト・レボリューション
』。身体障害や精神障害など日本には約860万人もの障害者が存在するにもかかわらず、「障害者の恋愛と性」はこれまで語ることすらタブーとされてきました。ここでは主演のリリー・フランキーさんに、役柄に対する思いや障害者を取り巻く環境について聞いてみました。

車椅子の身体障害者と精神的な障害を持つ女の子、不完全な2人の恋愛物語

――『パーフェクト・レボリューション』は、脳性麻痺で車椅子生活を送っている主人公クマと、精神的な障害を持ったヒロインのミツ、不完全な2人が立ちはだかる偏見や差別の壁に屈せず「本当の幸せ=完全な革命」を求めて恋をする映画です。障害者が主人公と聞くとシリアスなドキュメンタリーをイメージしがちですが、この作品は観ていてすごく楽しいエンターテインメントになっていますね。

リリー:
観ればわかるけど、リアリティーとファンタジーがまざった「バカ映画」ですよね(笑)。今まで日本には障害者を主人公にしたこういうエンターテインメント映画はなかった。松本准平監督やプロデューサーも、賛否両論があるのは覚悟の上で「こんな映画があってもいいんじゃないか」とポップなエンターテインメントを目指したそうです。

――リリーさんが演じた主人公クマのモデルである熊篠慶彦氏は、身体障害者に関するさまざまな活動をされています。リリーさんと彼が以前から友人だったそうですね。

リリー:
熊篠とは10年くらい前に『アダルトトレジャーエキスポ』というイベントがあって、そこで人から紹介されて知り合ったんです。以来、彼が理事長を務めているNPO法人『ノアール』のイメージキャラクターを描いたり、プライベートでも交流してきました。ですから、今回、クマ役のオファーをいただいたときは嬉しかったですね。
 映画の役って、たいていは架空の人物だし、実在していても昔の人だったりしますが、友達が主役で、しかもそれを自分が演じるなんてなかなかないことです。そういう意味では、役づくりも他の作品より楽でした。熊篠の性格や、普段考えていること、感じていることがわかっているからいちいち想像しなくて済むんです。もちろん、身体障害者が食事をとる大変さとか、新幹線に乗るにも車椅子だと乗ることのできる号車が限られているとか、クマ役を演じたことであらためて気付かされた発見もありました。
【映画で主人公のクマ役を演じた、リリー・フランキーさん】

「障害者は聖人」という空想

――映画の冒頭で、クマが講演会に来た聴衆に向かって、障害者にも恋愛感情や性欲があることを伝えますね。

リリー:
この映画はエンターテインメントだから、観ておもしろければそれでいい。ただ、障害者も健常者と同じように普通に人を好きになるし、セックスだってしたいんだということは知ってほしい。クマ=熊篠が彼の活動を通じて言っていることというのは、そういう至極真っ当なんです。
 ところが日本では、健常者がそれを理解していない。どこかに「障害者には恋愛感情もなければ性欲求もない」、「障害者はこうあるべき」という空想があって、障害者を聖人化している。そして、障害者の方もそれに合わせて演じなくてはいけない。そのせいで「障害者の性」というと、それだけで重たく聞こえてしまうようになった。人を好きになったら相手に触れたいしキスもしたい。これって当たり前じゃないですか。ところが障害者がそれを口にすると「あなたたちがそれを言い出すのはちょっと……」みたいな空気があるわけです。

――なぜ日本ではそれほどまでに「障害者の性」に目をそむけてしまうんでしょうか。

リリー:
健常者にとって見たくないものなんでしょうね。それと、障害者に接する現場の人たちも飛躍して考え過ぎるところがある。障害者に性欲求があると知ると、介助やボランティアの人が、「もしオナニーするのを手伝ってくれと言われたらどうしよう」などど考え、勝手に引いたりする。
 この映画を通じて知ってほしいのは「それ以前」の問題で、障害者にもそういう恋愛感情が普通にあるんだよということなんです。障害者に恋愛感情や性欲求があることを認めないというのは、これはもう人権や尊厳に関わることです。今のところ、日本で表立ってこれを訴えているのは熊篠しかいないんですね。

――映画の中にもクマとミツの関係に否定的、差別的な態度で接する人たちが登場します。クマ自身も最初はミツと交際することに躊躇していました。それに対してミツは「世界に証明するの。本当の幸せを!」とクマに正面からぶつかっていく。見ていて清々しいですね。

リリー:
クマは保守的な常識人です。ミツは言っていることは破綻していて最初はイタい女に見えるんだけど(笑)、結局、彼女の発言の方が真実なんですね。障害者だって人を愛していいんです。一方で、2人が付き合うことで、生まれたときから何かしらの介助を受けながらでないと生きられなかったクマが、はじめてミツという自分以外の人の心に寄り添おうとする。この映画は、そういうクマの成長物語でもあるんです。あと、ミツ役の清野菜名ちゃんがすごく瑞々しく演じてくれたことで、いい映画になりました。

世の中はなかなか変わらないけれど、知ってもらうことはできる

――リリーさん自身は、熊篠さんと出会う以前から障害者の方々と接してこられたんですか。

リリー:
子どもの頃は田舎の小学校に通っていましたから、クラスメイトに普通に片足がないとかダウン症の子とかがいました。熊篠もそうですけど、仲間内だと障害があっても、そんなことは気にならなくなるんですよ。一緒に行動していて、「そういえばこいつ電車乗るの大変だったんだよな」とか時々思い出すくらいで。そういう子たちと一緒に教育を受けたのは自分でもよかったなと思っています。
 一方で、地方にはすごく封建的な空気もあって、たとえば障害者がラブホテルにでも入ろうものなら「あんた国から金もろうて恋愛とかセックスとか、そんなことする前にやることがあるやろ」みたいな心ないことを言う人がいるわけです。そのくせ車椅子に乗っているその人が何の病気を患っているか、知ろうともしない。こういうのが代々因習となっている。民族性というか、日本人の中には大昔から他人に対する優しさと意地の悪さが共存しつづけてきているんですね。これは1本の映画とか何かのイベントで変わるようなものじゃない。熊篠のような人間がアイコンとなって、少しずつ意識を拡げていくしかないと思います。
――そういう日本の社会を、どうやって変えていったらいいでしょう。

リリー:
なかなか変わりはしないけれど、知ってもらうことはできる。障害者にも恋愛感情や性欲があるということ自体は誰だってすぐに理解できる。でも、今まではなぜかそれができなかった。障害者を取り扱う番組というと、涙や感動を誘うようなつくりだったり、あるいは飛躍していきなり障害者風俗の話になってしまったり、そういうのばかりですよね。
 2020年には東京でパラリンピックが開催されます。大勢の障害者が海外からやって来る。その中には電車に乗っている若い女の子に向かって、「いいケツしてんね」くらいのことは言う下品な人もいるかもしれませんよね。世の中には下品なおじさんがいっぱいいるんだから(笑)、障害者にだって下品な人がいたって何らおかしくない。だけど、それにフタをして見ぬふりをしていたら、“本当のおもてなし”なんかできないですよね。
 この間、熊篠が一度行ってみたいというから銀座のクラブに行ったんですよ。そうしたら事前にそこの社長さんやホステスさんたちが「店には車椅子で入れるトイレがないので探しておきます」と準備してくれていました。こういう心配りを自然とできる人たちがいるんだから、意識次第できっとみんなできるはずです。

――最後に、この映画をどんな人たちに観てもらいたいですか。

リリー:
やっぱり若い人たちに観てもらいたいですね。この映画を観終わった後の感想は、単純に「おもしろかった」とか、もしくは「つまらなかった」とかでもいいと思います。熊篠という人間の実話に基づいた話ではあるんだけど、別にこの映画が障害者を代表しているわけではないし、創作やファンタジーの部分もあるわけですから。まずは、恋愛感情や性欲求は健常者も障害者も区別なく当然持っている、みんな同じひとりの人間なんだという事実を知ってもらえればいいんじゃないでしょうか。
リリー・フランキー(りりー・ふらんきー)
1963年生まれ。福岡県出身。武蔵野美術大学卒業。イラストレーター。イラスト、デザインの他、文筆、作詞・作曲、俳優業など幅広い分野で活躍。2006年、発行部数230万部を超えた長編小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で本屋大賞受賞。絵本『おでんくん』はアニメ化。音楽活動においては総合プロデュースをした藤田恵美『花束と猫』が第54回「輝く!日本レコード大賞」において優秀アルバム賞を受賞。俳優として、08年、映画『くるりのこと』で第51回ブルーリボン賞新人賞、13年に『そして父になる』で第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、『凶悪』で同賞優秀助演男優賞受賞。16年にも第40回日本アカデミー賞、第59回ブルーリボン賞でそれぞれ優秀助演男優賞を受賞。映画『
パーフェクト・レボリューション
』は、10月25日現在、シネマート新宿他にて全国絶賛上映中。



リリー・フランキーさんが演じた「クマ」のモデル、熊篠慶彦さんが登壇する分科会も要チェック!
11月18日(土)10:00~12:00 
障害者と性 ~共生社会のタブー~