ヒップホップアーティストとして数多くのヒット曲を世に輩出するなど、日本のクラブカルチャーには欠かせない存在のZeebraさん。2016年の風営法改正(※)の際は朝のゴミ拾いや署名活動、さらに渋谷区の「夜の市長」に就任するなど、クラブカルチャーのみならず、日本の夜の経済を活性化するために活動されています。今回はそんなZeebraさんにクラブカルチャーが日本に与えた影響や、その現状についてお聞きしました。
※改正前の風営法では深夜にお酒を提供しダンスする場は違法とされてきたが、2016年6月に改正された風営法ではクラブなどが風営法の規制対象から外れた。

クラブでは多様な才能が出会い、新しい文化が生み出されてきた

--Zeebraさんはアーティストとしてクラブカルチャーに深く関わってきましたが、Zeebraさんにとってクラブの魅力はなんでしょうか。そしてクラブからどんな影響を受けたとお考えですか。

Zeebra:
僕は20歳くらいの時から六本木のクラブでDJを始めて、ヒップホップやブラックミュージックを中心にかけていました。やがてDJをやりながら自分でラップや曲を作るようになっていったので、クラブでミュージシャンとして育っていった面が大きいと思います。
 僕がDJやラップを始めた80年代半ばは、日本だとディスコが流行っていたのですが、店によって流す音楽のジャンルが決まっていました。クラブは月曜日にはヒップホップ、火曜日はハウスミュージック、というように同じクラブでも日によって音楽のジャンルが変わるのは当時だと画期的でした。日本のカルチャーそのものが、80年代後半から流行が多様化してきた印象がありますが、それと同じように多様化する音楽を象徴するのが当時のクラブだったのではないかと思いますね。
 そんな時代背景にあって、僕自身はクラブで“自分たちの目線”で面白いことをやるのに熱中していました。
Zeebraさんのライブ中の様子
 同じクラブでも普段行かない日にふらっと行くと全然知らない人たちが集まっているので、さまざまなバックグラウンドを持つ人と出会えました。自分とは違う物事に興味を持ち、考え方も違う。さらにそこで知り合った人を介して次々と他の人とも繋がっていく。まるでSNSのリアル版のような感じです。SNSが生まれるずっと以前に、SNSのような人間関係がクラブというリアルな場でつくられていたのは面白いですよね。
 音楽関係だけでなくアートやファッションなど、さまざまな分野のクリエイターが集まってきます。そのため「クラブはフランスのサロン文化に近い」ともよく言われます。
 さまざまな分野のクリエイターたちがクラブで出会って、影響を与え合い、コラボレーションしていろいろなものを生み出していく。これがクラブカルチャーの魅力ですね。

深夜でも踊れる社会へ向けてアーティストたちが活動

--音楽活動以外にも、クラブカルチャーを守る会(Club and Club Culture Conference)、略して「CCCC」(シーフォー)の会長として風営法の改正に向けた社会的な活動もされていますね。

Zeebra:
2016年6月に改正されるまでは、風営法によって深夜0時以降にお酒を出して踊ることが禁止されていました。クラブだけではなく社交ダンスやサルサやタンゴのお店もすべてです。法律上、踊ることと飲酒を深夜に一緒にすることが大変な悪とされていた。そのことに違和感を覚えていました。
 2010年頃から「時代に合っていない風営法を改正すべきだ」という声が高まり、関西の方が中心となって「Let’s DANCE 署名推進委員会」という団体を立ち上げ、署名運動を起こしました。クラブの前で署名を集めたほか、社交ダンスやサルサの関連団体の方たちも協力してくださり、15万人を超える署名が集まりました。
 これがきっかけとなり、超党派の国会議員で構成される「ダンス文化推進議員連盟」が発足されるなど、日本社会のなかで風営法を考える機会を設けることができたのですが、「東京はクラブも多いのだから、風営法改正に向けて何かやるべきだ」と考え、まずはDJやラッパーやアーティスト主体で「クラブカルチャーを守る会」を結成し、僕が会長を務めることになりました。風営法について警察と対話の場をつくることやクラブの現状を政治家の方たちに説明するなど、権利を訴えるだけではなく、具体的に一歩一歩改正に向けて活動してきました。

--アーティスト自らがロビー活動をしようと思ったのはなぜですか?

Zeebra:
署名が集まったこともあり、以前の風営法はダンスの規制について変わるだろうということは見通しがつきました。ただ問題はそれがどのように変わるかです。署名の半分以上は社交ダンスやサルサの方たちが集めたもので、僕たちクラブ側も一丸となって動かなければ、クラブカルチャーにとって不利な法改正をされてしまうかもしれないと危機感を持っていました。そのため、CCCC会長として、またクラブカルチャーを代表する者としてロビー活動や署名運動にいっそう打ち込むことにしたのです。
 余談ですが、「ダンス文化推進議連」が超党派だったのは、本当によかったと思います。クラブと同じように、異なるバックグラウンドを持つ人が集まっているので、コミュニケーション面などクラブを通じた過去の自分の経験を活かせました。僕は常に超党派のような環境で活動してきましたから(笑)。

コミュニティに溶け込む努力を始め、状況は大きく変わった

--ロビー活動や署名運動のほかには、どんな活動をされているのでしょうか。

Zeebra:
ロビー活動を進めるうちに、僕たちクラブに携わる側が抱えるさまざまな問題について考えるようになりました。もっとも大きな問題は「クラブの騒音」です。通常クラブには防音設備が整っているので、外に音が漏れることはありません。ただ、クラブの周辺に人がたむろし、話し声などが騒音となることがありました。また、タバコの吸殻などのゴミを捨てる人もいるという状況だったため、地域の町内会や商店街からはクラブに対する拒絶感が強かったのです。
 自分たちの権利を主張するなら、クラブも地域のコミュニティにしっかり溶け込むようにしなくてはならない。
 そのために実行したのが掃除です。月に一度、クラブが閉店する朝方の時間に集まって、渋谷のクラブ街の掃除を始めました。われわれはそこで働いて、ご飯も食べさせてもらっているのだから、そうするのが当然だと考えました。
 一方で、クラブのメインのお客さんである若い子たちには「よりかっこいい遊び方」を呼びかける「PLAYCOOL」というキャンペーンを始めました。遊び自体を「禁止」するのでなくマナーを守り、周囲の住民に敬意を払ったクールな遊び方をしようと呼びかけています。
 こうした活動を町内会や商店街の方がすごく喜んでくださったんですね。
 法律に対して文句を言うだけではなくて、自分たちの問題を前向きに解決しようとしている姿勢が伝わったのか、少しずつですが商店街、町内会の方たちの理解を得られるようになっていきました。今では渋谷の商店街の会長さんとはお酒を飲みに行ける仲にまでなりました(笑)。
 これらの活動が実を結び、2016年6月の風営法改正につながったわけです。
CCCCでゴミ拾いの様子 撮影:日浦一郎

渋谷区のナイトアンバサダーとして渋谷の夜の楽しみを増やしていきたい

--CCCC会長としての活動と並行して2016年4月、渋谷区のナイトアンバサダー(夜の市長)に任命されていますね。どのような経緯があったのでしょうか。

Zeebra:
風営法を変えるために何をすべきか考えている時に、オランダ・アムステルダムのナイトメイヤー制度のことを知りました。ナイトメイヤーとは、クラブやバーなどオランダの夜の文化の発展を目指し、夜の街と行政を繋ぐ役割を果たす「夜の市長」のことで、僕たちCCCCの活動ともかなり重なっていると感じていました。
 ちょうど同じ頃、新しく就任した渋谷区の観光協会の事務局長が、観光大使の新しい形を模索していました。そこで「ナイトアンバサダー」はどうだろうという話になり、僕が任命されたんです。直後にアムステルダムで開かれた「ナイトメイヤーサミット」にも渋谷区のナイトアンバサダーとして参加しました。
サミットでは、日本の風営法が改正されることになった経緯を報告すると大変盛り上がり、「どういうプロセスで風営法改正に向けて活動したのか」など海外の参加者から質問攻めにされました。街の一員として溶け込むため、自発的にゴミ拾いを行うなどの地道な活動は海外ではあまり例がなく、目からウロコだったようです。

--渋谷区はナイトメイヤー以外にも同性パートナーシップ条例など先進的取り組みを次々と行っていますね。

Zeebra:
渋谷は昔から「リーディングタウン」のような側面があり、住民も新しい物事に対してとても柔軟で、いろいろな取り組みが試せる街だと思います。今後も渋谷からさまざまなことが変わっていくのではないかと、楽しみにしています。
 世界では「ナイトタイムエコノミー」といって夜の娯楽を盛んにして経済を盛り上げていこう動きがあります。渋谷区のナイトアンバサダーとしては、クラブカルチャーをもっと盛り上げつつ、渋谷の夜の楽しみ方をもっと増やしていきたいですね。
--今後のクラブカルチャーや夜の娯楽についての展望を教えてください。

Zeebra:
クラブカルチャーや、夜の娯楽のイメージをもっと向上させていきたいと考えています。確かに、クラブに来た若い子たちが街を汚してしまうこともあります。ただ、若い子たちがハメを外して騒いでしまうのは、ある意味しょうがないとも僕は思っています。ゴミはゴミ箱に捨ててほしいけれど、若いうちはカッコつけたいし、ゴミなんか拾いたくないと、昔の僕も考えていました。
 そこで僕たち大人の出番です。
 CCCCのメンバーは僕よりも年上の方たちが中心ですが、今の年齢になったからこそできることをやろうと思います。自分も若い時は大人にたくさん迷惑をかけてきたから、これからは若い子たちが周囲にかけてしまう迷惑を自分がこうむることにしました(笑)。「よりかっこいい遊び方」を呼びかける「PLAYCOOL」な遊び方ができる人たちが増えて、渋谷から日本の夜をもっと盛り上げていきたいですね。
Zeebra (ジブラ)
1971年、東京生まれ。ミュージシャン、DJ。95年ヒップホップグループKING GIDRA「空からの力」で95年にデビュー。97年にはソロデビューも果たす。また、ダンスクラブの深夜営業を禁じる風営法の問題と取り組むため、アーティストたちと共に「クラブとクラブカルチャーを守る会」設立し、会長に。風営法改正に向けてさまざまな活動を行う。2016年に4月20日渋谷区観光大使ナイトアンバサダーに就任。オランダ・アムステルダム開催されたナイトメイヤーサミットに参加し、スピーチを行った。