11月17日から3日間にわたり「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」が、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された。本記事では、フォーラムに参加した人もしなかった人も、ソーシャルイノベーションについて注目の事柄を、分科会を除く(※)主要コンテンツの総合レポートとしてお伝えする。

※総合レポート(2)<分科会編>はコチラ

■1日目:オープニング

・主な登壇者
笹川陽平氏(日本財団会長)
小泉進次郎氏(衆議院議員)
長谷部健氏(渋谷区長)など

 「にっぽんの将来をつくる」をテーマに掲げ、3日間にわたって熱い議論が繰り広げられた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」。11月17日のオープニング冒頭では、日本財団の笹川会長が500人以上の来場者を前に開会の挨拶に立った。
「現在の日本にはさまざまな社会問題があり、それらが複雑に連鎖し、絡み合っています。こうした状況を打破するにはオープンな議論が必要で、本フォーラムはそのための場です。会場にお集まりの皆さんには、ここに来ればきっと何か新しい出会いがあるだろう、何か新しいことが起こせるのではないか、という期待があることでしょう。私たちも皆さんと共にソーシャルイノベーションを起こして、明るい日本の未来をつくっていきたいと思っています」
 続く基調講演では渋谷区長の長谷部氏が壇上に立ち、「自治体の憲法」ともいえる渋谷区の基本構想を紹介した。
「渋谷といえば、地方や海外からも多くの人が集まる日本有数の“国際都市”です。そこで私たちは“ちがいを ちからに 変える街”をテーマに、渋谷区をロンドン、パリ、ニューヨークに匹敵するシティプライドを持った都市にするため、さまざまな事業に取り組んでいます。キーワードは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)。渋谷を世界のハブとなるイノベーションシティにするのが私たちの目標です」
 次に、3日間のフォーラムの中核を成す23の分科会を企画した4人のプロデューサーが説明。各分科会は「Vision(にっぽんの将来像を探る)」、「Issue(社会課題を解きほぐす)」、「Collaboration(既存の枠を超える)」、「Resource(社会変革の源泉を生み出す)」の4つのテーマに分かれ、それぞれの社会課題に取り組んでいるプレーヤーがパネリストとして参加する。プロデューサーたちが「立ち見必至」だと語った分科会には、その言葉通り2、3日目に多くの来場者が訪れた(詳しくはコチラ)。
 その後行われた基調講演には、衆議院議員の小泉氏が登壇し、自民党の公約である待機児童対策と幼児教育の無償化に言及した。政府の要望で3000億円の財源を負担することになった経済界に対して、「企業が政治の顔色をうかがっていては、日本にイノベーションは生まれない」と、身振り手振りを交えたスピーチで会場を圧倒。そのうえで、来場者と会場にいるソーシャルイノベーターに「新しい経済人として、日本の経済界を変えてください」と熱いメッセージを贈った。
 講演終了後のスペシャルトークでは、小泉氏、長谷部氏、笹川会長が会場からの質問に回答する時間が設けられた。小学生の子どもを持つ専業主婦や聴覚障害者、海外在住者、政治学部への入学を志望する高校生などから質問が寄せられ、壇上の3人がそのひとつひとつに真摯に回答していた。
 オープニングもいよいよ終盤に差しかかり、228組の応募の中から選ばれた7人の「ソーシャルイノベーター」が登壇した。本フォーラムでは、来たる12月14日に予定されている「日本財団ソーシャルイノベーターアワード」に先立ち、最終日には各ソーシャルイノベーターがプレゼンテーションを行った。挨拶に立った7人からは、「人々のマインドセットを変えたい」、「ひとりひとりが未来を選択して動く世の中にしたい」、あるいは「声なき声を聞いて、道を考えていきたい」といったそれぞれの抱負が語られた。
 2日目から実施された分科会に期待をにじませ、約4時間のオープニングは拍手と共に閉幕した。

■3日目:ソーシャルイノベーター プレゼンテーション

・登壇者
浅谷治希氏(LOUPE Inc. CEO,founder)
仁藤夢乃氏(一般社団法⼈Colabo 代表)
安部敏樹氏(一般社団法人リディラバ 代表理事)
小松洋介氏(特定非営利活動法人アスヘノキボウ 代表理事)
岡 勇樹氏(NPO法人Ubdobe代表理事、一般社団法人国際福祉機構 代表理事、合同会社ONE ON ONE代表)
川口 良氏(一般社団法人WorkAnywhere 代表理事、ストレイライト合同会社 代表社員)
横山太郎氏(Indicocrea<インディコクリエ>、横浜市立市民病院緩和ケア内科)
大室悦賀氏(京都産業大学経営学科 教授)
荻上健太郎氏(日本財団経営企画部長)

 フォーラム2017のハイライト映像と昨年のアワードの様子をまとめた映像から始まった「ソーシャルイノベーター プレゼンテーション」。日本財団の支援制度で応募総数228組から選ばれたソーシャルイノベーター7人によるプレゼン大会には、多くの来場者が足を運んだ。
 1人6分間の持ち時間の中で「日本教員多忙化対策委員会(浅谷氏)」「ソーシャルセクター全体のR&D部門に(安部氏)」「Digital Interactive Rehabilitation System(デジリハ、岡氏)」「CONTINUUM – コンティニュアム(川口氏)」「Venture For Japan(小松氏)」「夜間巡回バスによる青少年へのアウトリーチ(仁藤氏)」「これでいいのだ! CO-MINKAN(横山氏)」(※発表順)とそれぞれの社会課題を解決するユニークな事業計画が披露された。
 コメンテーター役である大室氏、荻上氏による講評・質疑を挟みながら、トータル2時間にわたったプレゼン大会は終了した。12月14日に開かれる「日本財団ソーシャルイノベーターアワード」授賞式で最優秀賞(1組)、優秀賞(2組)が決定し、最優秀賞には年間上限1億円(3年間)の支援がされることとなる。栄冠をつかみ取るのはどのイノベーターか、今から結果が楽しみだ。

■3日目: シンポジウム「日本の将来をつくる~子どもと教育が日本のイノベーションをおこす~」

・登壇者
川上量生氏(カドカワ株式会社 代表取締役社長、学校法人ドワンゴ 学園理事)
白田直也氏(認定NPO法人 Teach For Japan 代表理事兼CEO)
鈴木 寛氏(文部科学大臣補佐官)
中室牧子氏(慶應義塾大学総合政策学部 准教授)
萱野稔人氏(哲学者、津田塾大学総合政策学部長 学部長)
伊東敏恵氏(NHK甲府放送局 アナウンス副部長)

 イノベーションに不可欠なのは、それを起こすイノベーターの育成だ。少子化の今、限られたリソースで優れた人材を育成するには、教育そのものにイノベーションが必要だと言われている。では、実際に子どもたちを取り巻く教育の現場は、昔に比べてどのように変化したのだろうか。
 まず、中室氏の報告に会場は驚かされた。「リサーチで地方の中学や高校に行くと、まるでタイムスリップしたかのように、自分が中高生だった30年前と変わらない教育がなされている」という。そこでまかり通っているのは「シャーペンを使うと頭が悪くなる」「子どもは誉めてのばす」といった根拠のない通説や限られた経験に縛られた教育理念だ。「そうではなく、これからはビッグデータなどの科学的根拠に基づいた教育方法、エビデンスベーストを導入していく必要があります」と中室氏は訴える。
 他にも教育の現場には、7人に1人が陥っているとも言われる子どもの貧困や、教師の疲弊といった問題がある。貧困家庭の子どもは塾に通えず、結果的に教育が格差を広げる原因になってしまっているという。また、学校では教師の労働時間が長過ぎて質の高い教育ができずにいるという問題に、教育現場にさまざまな能力や情熱を持った社会人や学生を講師として派遣するといった活動をしている白田氏は、「現場の教室は先生1人では対応できないことが多過ぎる。だったら子どもを信頼して子ども同士で問題を解決すればいい」と提言した。文部科学大臣補佐官である鈴木氏は「人生が多様化している現在の日本は300年ぶりの大変革期。子どもたちが充実した教育を受けられるように学習指導要綱を抜本的に変えていきます」と発言。さらに、2016年に通信制のN高等学校を立ち上げた川上氏は「イノベーションにはネットとコンピューターが重要。頼もしいのは、今の時代、大人よりも子どもの方が詳しいという逆転現象が起きていることです」と語った。
 パネルディスカッションの最後、コーディネーターの萱野氏と伊東氏からパネリストに向けられた質問は「日本のこれからの教育を変えるために一番大切だと思うことは何か」というもの。これに対し、中室氏は「エピソードベーストからエビデンスベーストへ」。白田氏は「先生が変わること」。鈴木氏は「納税者の理解、それに教育現場、政策者、保護者の学びと熟議」と回答。川上氏は「教育徴兵制度。今の日本社会は女性と教師に教育と育児を押しつけている。すべての大人は教育に関わるべきです」と持論を展開した。これに白田氏や中室氏、鈴木氏は「みんなが教壇に立つつもりで変わっていけばイノベーションはきっと起こせます」と賛意を表明した。日本のイノベーションは教育から――。熱い意見が交わされた3時間に及ぶシンポジウムは、教育こそが日本の未来をつくる鍵であることをあらためて知らしめてくれた。

■3日目:子どもの未来を応援する首長連合公開討論「マルチセクターの協働で創る新しい子どもの貧困対策」

・登壇者
浅井雅司氏(子どもの未来を応援する首長連合事務局、佐賀県武雄市 副市長)
小宮山利恵子氏(リクルート次世代教育研究院 院長)
井村良英氏(認定NPO法人育て上げネット 若年支援事業部HR担当部長)
今井悠介氏(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 代表理事)
片岡 靖氏(一般社団法人ICT CONECT 21 常任理事・事務局長)
岩本 悠氏(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 共同理事)

 「子どもの未来を応援する首長連合(以下、首長連合)」は「貧困の連鎖を断ち切る」という社会課題解決を目的に、佐賀県武雄市で2016年に組織された。子どもの未来を応援する首長連合公開討論「マルチセクターの協働で創る新しい子どもの貧困対策」は、その首長連合が主催する出張イベントとなった。
 パネルディスカッションでは浅井氏とともに片岡氏、今井氏、井村氏、小宮氏ら、教育関連事業の実践者が登壇。パネルディスカッション形式で、子どもの貧困対策の背景にある社会課題について議論し、その内容が共有された。
 その後の事例紹介では、今年7月に発表された子どもの貧困対策プロジェクト「家でも学校でもない第三の居場所」について、日本財団経営企画部の桔梗哲也氏から紹介された。同プロジェクトは、生きにくさを抱える子どもを総合的に支援する拠点をつくるプロジェクトであり、すでに取り組みが始まっている自治体もある。その代表的事例として埼玉県戸田市、広島県尾道市での取り組みが紹介された後、事業者と両市自治体担当者らのパネルディスカッションも行われた。
 後半では2016年度ソーシャルイノベーター最優秀賞である岩本氏が登場した。岩本氏が行ってきた事例紹介の後、同氏をファシリテーターとする本格的なグループワークへ進んだ。来場者3〜4人がグループになり「協働を阻む壁」「協働を進める要素」「協働をより進める支援・機会・場・仕組み」などについて議論した。この場で創出されたアイデアは模造紙に一覧化され、首長連合や参加者にも共有され、参加者からは首長連合に対し「協働を促進する制度や仕組みを作っていってほしい」「コーディネーターを育成してほしい」などの意見が寄せられた。首長連合・浅井氏は「今日を次につながるきっかけにしてもらえれば」と最後に挨拶し、4時間に渡った討論会は終了した。

■3日目:クロージング

 3日間のフォーラムのフィナーレとなるクロージングでは、日本財団のTVCMソング『愛は勝つ』を歌うシンガーソングライターの新山詩織さんがサプライズで登場した。アコースティックギターの響きに乗せた胸に沁みる力強い歌声に、会場からは盛大な拍手が贈られた。
 最後は日本財団の荻上氏が「来年のフォーラムは渋谷で開催します」と、先月末締結された「渋谷区×日本財団 ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」を印象付ける発表を行い、「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」は活況のうちに閉幕した。
ソーシャルイノベーションは、年に1回行われる本フォーラムだけではなく、私たちひとりひとりの生活の中でこそ実践されるべきものであるという示唆を、多くの人が得られたのではないだろうか。今後も新たなソーシャルイノベーションとなり得る“種”に注目したい。

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