去る11月17日から3日間にわたり「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」が、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された。本記事では、数あるフォーラムの中でも特に活況を呈した「分科会」(※)から7つを振り返り、ソーシャルイノベーションについて考えるきっかけをお届けする。

※「Vision」、「Issue」、「Collaboration」、「Resource」の4つのテーマに分けられ、講話だけでなく参加者とのディスカッション形式を取って「ソーシャルイノベーションについて語り合う場」を目的に開かれた。今年は3日間で計23の分科会が企画された。

■Vision 2:「公」をどのように担っていくか

・登壇者
萱野稔人氏(津田塾大学総合政策学部長、教授)
菅原郁郎氏(内閣官房参与)
関 治之氏(一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事)
為末 大氏

 進行役は、萱野氏。経産省若手有志によるプロジェクト「不安な個人、立ちすくむ国家」のメンバー3人と当時の事務次官・菅原氏と、関氏、為末氏を招いた討論会となった。
 今年5月に公開された同プロジェクトのペーパーは150万超ダウンロードを記録し、書籍化されるほどの反響があった。若手有志を後押ししてきた菅原氏は「公の役割が時代錯誤になっている」と指摘し、賛否がうずまくプロジェクトの実効性を強調した。ペーパー公開後に興味を持ち、すぐに経産省にコンタクトを取ったという関氏は「行政だけでは解決できないことがある」と市民主体のコミュニティづくりの重要性を説くとともに、菅原氏らの活動を応援していくことを表明した。
 質疑応答ではソーシャルビジネスに関心を持つ大学生から「お金以外に参加者のモチベーションになり得るものは?」とのするどい質問が飛んだ。為末氏は「(スポーツ界の引退も)役割・居場所が与えられることの意義は大きかった」と、元陸上選手、そして指導者の視点から貴重なアドバイスを送った。

以下、登壇者コメントを抜粋。
「日本は変わらなければいけないという想いを強くした」(菅原氏)
「来場された皆さんの真剣度が伝わってきた2時間でした」(萱野氏)
「これからはNPO連携のアイデアも出てきてほしい」(関氏)
「人類にとっての公益を考えることのできた、とても楽しい時間でした」(為末氏)

■Issue3:障害者と性 共生社会のタブー

・登壇者
熊谷晋一郎氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授、小児科医)
熊篠慶彦氏(特定非営利活動法人ノアール理事長)
琴音氏(欠損BARブッシュドノエル)
中嶋涼子氏(外資系映像会社/放送制作エディター、Co-Co Life☆女子部/読者モデル・スタッフ)

 障害者の性、そして恋愛とはどういったものか。本分科会では脳性まひや交通事故などで障害者となった4人のパネリストが、それぞれの体験をもとに意見を述べ合った。
 障害者の恋愛といっても、「出会い」が学校生活やネットのマッチングサイトなど、ごく普通のシチュエーションにある点は健常者と何ら変わりはない。アメリカ留学の経験がある中嶋氏によれば「アメリカではスタバや図書館などで、普通に男性から声をかけられました」という。一方、「日本だと知り合った女性に付き合ってくださいと告白しても、相手が『付き合うってどういうこと』とひるんじゃうんです」と熊谷氏は語る。それは「この国に障害者の恋愛に関するテンプレートとなる情報がないから」と分析するのが、熊篠氏だ。同氏は障害があっても入れるラブホテルや風俗店などを調査、紹介する活動を続けてきており、熊谷氏も「ずいぶん助けられました」と振り返る。
 一方、琴音氏は「障害を持ったことで、以前はネガティブだった恋愛に対して積極的になれた」と語る。一見、ハードルが高いように映る障害者の性。話を聞いていると、むしろ健常者よりも自由な精神で、恋愛を謳歌する障害者の姿が浮かび上がってきた。

以下、登壇者コメントを抜粋。
「『欲望と快楽』は型どおりではなく、個人に即した支援の形があることを知ってほしい」(熊谷氏)
「情報が氾濫する時代、(今回話したような内容を)すべて伝えなくても済む想像力を、ひとりひとりが持てれば」(熊篠氏)
「性や恋愛に関する話は、障害の有無に関わらず誰しも『平等』だと、改めて気づいた」(琴音氏)
「今日この場に居られるのもそうですが、“出会い”は価値観を刺激してくれる。恋愛だって、その1つです」(中嶋氏)

■Resource3:“シェア”による持続可能な街づくり 渋谷区の長期基本計画への取組み

・登壇者
佐別当隆志氏(一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長、株式会社ガイアックス ブランド推進室、株式会社mazel代表取締役)
村瀬正尊氏(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 理事、株式会社マチヅクリ・ラボラトリー 代表取締役)
金山淳吾氏(一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事)
澤田 伸氏(渋谷区 副区長)

 ソーシャルメディアの普及は、これまで社会的弱者とされてきた子育て中の女性や障害者などを含む個人にビジネスチャンスをもたらした。その入口となっているのがシェアリングエコノミー(共有経済)だ。
 パネリストの1人である佐別当氏は、自宅の一部をシェアハウスとしたことで「地価の高い都心部でも収益が生まれ、住宅ローンもそこから支払うことができます」と話す。最近ではこのシェアリングエコノミーに企業や自治体も注目している。澤田氏が副区長を、金山氏が観光協会の代表理事を務める渋谷区では「シェアリングこそが都市を成長させる」という考えのもと、今年6月、シェアリングエコノミー協会と連携協定を結び、「シェアサミット」を開催したという。   
 村瀬氏はこうした自治体のシェアリングエコノミーには「公民連携が不可欠」と訴える。ポイントとなるのは「公園や河川敷、図書館など町の金喰い虫である公的不動産を民間とのシェアで稼ぎ頭に変えること」だと言う。パネリストたちのコメントからは、街をより良く変えていくためには、そこに暮らす人々の意識がもっとも重要であるというメッセージが表れていた。

以下、登壇者コメントを抜粋。
「シェアリング、多様性、そしてソーシャルイノベーションを未来志向で実践すること」(澤田氏)
「ひとりひとりが当事者意識を持つこと」(佐別当氏)
「物事を自分ゴト化する姿勢」(村瀬氏)
「自分の中に個性をいくつ見つけられるか」(金山氏)
(「“シェア”による持続可能な街づくりに必要なことを一言で言うならば」との問いに対する回答)

■Vision4:人生100年時代の新しい生業(なりわい) わたしたちの働き方・暮らし方の未来

・登壇者
清水謙氏(ヒトコトデザイン株式会社 代表取締役、NPO法人ETIC.ローカルベンチャーラボコーディネーター、コワーキングスペースチガラボ代表)
岡野春樹(郡上カンパニー ディレクター)
曽我浩太郎氏(未来予報株式会社代表取締役 プロジェクトデザイナー、SXSW LLC, 公式コンサルタント)
小林味愛氏(株式会社陽と人<ひとびと>代表取締役社長)

 進行役である清水氏は日本の人口構成の変化、長寿化、エネルギー・環境問題の深刻化など、日本の未来に影響を与える問題を説明し、「私たちの働き方・暮らし方の未来も変わる」と、本分科会の趣旨を改めて説明した。
 その後、会社を辞めてからソーシャルビジネスを立ち上げた実践者として、曽我氏、小林氏、岡野氏の3人が登壇。起業に至るまでの各人の人生、またその時々に抱いた想いがプレゼン形式で紹介された。
 会場には若者から年配の方まで幅広い年齢層の人が来場した。ある年配の方からは「これからも社会で自分が役に立つためにも、自分を必要としてくれる人とマッチングされる仕組みがほしい」との意見が寄せられた。

以下、登壇者コメントを抜粋。
「これをきっかけに次の10年、その先の100年に向けて想いを新たにしてほしい」(清水氏)
「我々の未来予報でこれからも『創造の連鎖』を起こしていきたい」(曽我氏)
「ネガティブな感情は実はチャンス。ネガティブな感情を持つ場所に改善すべき問題がある」(岡野氏)
「最期を迎えるときに『いい人生だった!』と言えるような社会にしていきたい」(小林氏)

■Vision1:ソーシャルイノベーションと日本人 日本の智恵は江戸にあり

・登壇者
浅野大介氏(経済産業省 大臣官房政策審議室 企画官)
山﨑善弘氏(東京未来大学モチベーション行動科学部)
小泉吉永氏(法政大学文学部講師、学術博士<金沢大学>、往来物倶楽部 代表)
西田陽光氏(一般社団法人次世代社会研究機構 代表理事、公益認定NPO法人MPJ<ミレニアムプロミスジャパン>理事)

 分科会の冒頭、「日本にソーシャルイノベーションは起こっていない」と問題提起したのは浅野氏だった。「社会システムを変革するのにリーダーシップもなければガバナンスもない、アジェンダセッターもいない。足下の株価は上がっていますが、病気が進んでいるのが今の日本です」という言葉の背景には、深刻な人材不足がある。
 その人材育成を「江戸の智恵に学ぼう」と提言するのが西田氏だ。江戸時代の教育に詳しい小泉氏によると「江戸時代の子どもたちは寺小屋で読み書きを習う一方、模範となる大人と接触することで人としての立ち居振る舞いを覚えていきました」という。山﨑氏は「徳川時代が260年間も平和で安定していたのは、政治が優れていたのと民が成長したから。地方では地主や豪農層による富の社会的還元が行なわれていました」と語る。西田氏はそうした人間力を養う教育や社会の基礎となっていた現場主義は「今の時代で言うならハーバードで教えているような内容だった」と評価する。
 もうひとつの江戸時代の特色は、各地方に「偉人」と呼ばれる名士がいて、子どもたちが彼らを身近なロールモデルとして見て育ったという点だ。地方分権が進む今、ソーシャルイノベーションを起こすために、地方に活力のあった江戸時代から学べるものは少なくないはずだ。

以下、登壇者コメントを抜粋。
「来年は明治元年よりちょうど150年。これからの政策立案をする上でも明治の前の江戸時代を勉強していきたいなと思います」(浅野氏)
「私益を超える公益の理念、江戸時代にはそれがありました」(山﨑氏)
「公であれ民間であれ、さまざまな立場の人が本気で考える腹を割って話す。そういうことから物事を起こすことが大事だと思います」(小泉氏)
「みなさんの地元にどんな偉人がいて、どんなことを解決したか。まずは足下から探ってみてください」(西田氏)

■Vision7:ソーシャルテックの台頭 テクノロジーを活用した持続的な課題解決の方法

・登壇者
Yoav Elgrichi(ヨアフ・エルグリッチ)氏(Impact Tech共同創業者)
Kineret Karin(キネレット・カリン)氏(Impact Tech共同創業者)
Daniel Saito(ダニエル・サイトウ)氏(Red Robot CEO)
C. Jeffery Char(ジェフリー・チャー)氏(株式会社j-seed venture 代表取締役兼CEO)
Tim Romero(ティム・ロメロ)氏(起業家)

 冒頭、エルグリッチ氏が登壇し、Impact Techの活動を例に「収益を生みながら適切なテクノロジー活用で社会課題を解決する」というソーシャルテックの本懐について、海外で起こる数々の成功事例と共に紹介した。
 その後のパネルディスカッションにはカリン氏、ロメロ氏、サイトウ氏、チャー氏の4人がパネリストとして登壇した。「日本はかつて起業家精神があった国」と登壇者たちは語り、日本でソーシャルビジネスを継続して続けるには制度の壁や金銭面での問題を抱えやすいと指摘した。
 さらに、日本の就業文化、起業家のパッション、投資のあり方、政府の国家戦略やテクノロジーとの関係性など、日本におけるソーシャルイノベーションの問題点について討論が行われた。日本の学生起業家らも多く詰めかけ、パネリストが彼らから寄せられる質問に対し、丁寧にアドバイスを送る姿が印象的だった。

以下、登壇者コメントを抜粋。
「失敗を恐れては素晴らしいモノはつくれない。失敗を恐れてはいけない」(エルグリッチ氏)
「これからもテクノロジーで社会課題を解決するテクノロジーの開発に注力したい」(カリン氏)
「価値を創造することでソーシャルイノベーションに寄与していきたい」(ロメロ氏)
「ソーシャルイノベーションは単なる言葉。自分の想いのままにやればいい」(サイトウ氏)
「誰も解決しないなら自分でやる。そこから起業家精神が芽生える」(チャー氏)

■Issue4:「女性活躍」に隠れているもの 現代の女性は生きやすくなったのか

・登壇者
北条かや氏(著述家)
橘 ジュン氏(特定非営利活動法人BONDプロジェクト 代表)
中村淳彦氏(ノンフィクションライター)
勝部元気氏(評論家、株式会社リプロエージェント 代表取締役社長、パリテパートナーズ 代表理事)

 「女性の生きづらさ」が主題となった本分科会の冒頭、橘氏が見せてくれたのは、渋谷の街で仲間とともに何らかの問題を抱えていそうな若い女性に声をかけてまわる自身の姿を追ったドキュメンタリー番組だった。「家にいるよりはいい」と夜の街をさまよう10代の少女たちの姿は、いかにも危うい。
 中村氏、北条氏、勝部氏も「今は若い女性が生きづらい時代」と口を揃えた。女性の活躍が目立つ一方で、男女の格差を示すジェンダーギャップ指数で日本は114位。最近では女性の貧困が大きな社会問題となっている。多くの女性を見てきた橘氏は「夜の世界で働ける子はまだいい。自立できずにいる女性は多い」と語る。こうした女性たちに決定的に足りないのが「自己肯定感」だ。この問題に北条氏は「労働することで自己肯定感は高まるはずです。私も文章がおもしろいと言われたことが、支えになりました」という自身の体験を披露した。中村氏は「自己肯定感がないのは男性も同じ。男性の中にはその憂さを晴らすため、ネット上で執拗に女性を攻撃する人もいます」と指摘する。
 現在の日本にはこうした自己肯定感の欠乏から発生する「認知の歪み」が蔓延しているという。この状況を打破するには「変わりたいと思ったときに一歩踏み出すこと。それが自信につながります」という勝部氏の言葉に、他の3氏も強くうなずいた。
以下、登壇者コメントを抜粋。
「女性の貧困をなくすためにも賃金の底上げが必要です」(北条氏)
「世の中には自分では動けない若い女性が大勢いる。そういう女の子たちの存在を世の中に伝えていきたい」(橘氏)
「認知の歪みを是正するには社会全体で認知行動療法に取り組むという合意が必要。ニュースもそれを伝えるべきです」(中村氏)
「自分の自信がない人は演劇をするといいです。スポットライトを浴びることで自信がつきます」(勝部氏)


取材した分科会には、年齢、性別、所属を問わず多くの人で賑わっていた。普段は隣り合うことのない人々が一堂に会し、ソーシャルイノベーションについての考えを深める。ここに本フォーラムの意義を垣間見た。

分科会以外のコンテンツをまとめた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」総合レポートはコチラ