2017年度で2回目となる「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」。4月から募集を開始し、応募総数は228件となった。7月には、その中でも特に将来性が期待された7人が、ソーシャルイノベーターとして選出され、以降5カ月にわたってそれぞれが社会課題の解決に向けてプロジェクトを具現化してきた。本記事では12月14日に日本財団ビルで開催された「日本財団ソーシャルイノベーションアワード2017表彰式」の模様をレポートする。

熱い情熱を持ったソーシャルイノベーターたち

 表彰式の冒頭、挨拶に立った日本財団の笹川陽平会長は11月17~19日に行われた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」を振り返った。笹川会長が驚いたのは「20〜30代の若い人の参加が多いこと」だったという。
「日本にはさまざまな社会課題に向かって自ら行動しようという志の高い若者が大勢いる。フォーラムではその姿を直接目にし、日本財団として若者が輝ける日本の将来を彼らに託さなければならないという気持ちを強く持ちました」と強調した。
 その中でも、7人のソーシャルイノベーターたちを「熱い情熱と具体的な計画性を持ったリードオフマンになる人材」と評価した。
「知識を持っていてもそれだけでは何も起こらない。しかし、皆さんの場合は知識だけでなく、それぞれが現場を知っていて、計画性のもとに世の中を変えていこうとしている。こういった方々こそ指導者にふさわしいと思いますし、青少年が夢や希望を持てる日本を創っていってほしい。日本財団も皆さんとともに考え、社会課題を解決していきたいと思っています」と語った。
【挨拶する笹川会長】
 表彰式で選出されるのは最優秀賞1人、優秀賞2人。最優秀賞に選ばれたソーシャルイノベーターには年間上限1億円を3年間、計3億円を支援。優秀賞では年間上限5000万円を3年間、計1億5000万円を支援する。
 日本財団がソーシャルイノベーターに求める要件は、

・ビジョン構想力 既成概念にとらわれない発想で、社会課題を解決する革新的ビジョンを描く力
・戦略構築力 社会課題解決に向けた出口(目標)を描き、事業の発展及び継続に向けた戦略を構想する力
・遂行力 社会課題解決に向けた強い意欲を有し、プロジェクトを遂行する覚悟を有する力
・チーム組成力 セクターを越えたチームを組成し、共通認識の醸成や利害関係の調整を行い、マルチセクターの協働を実現する能力を有する力
・対外発信力 自らの活動を積極的に発信し、内外の協力を引き出す訴求力及び説得力を有する力
 
 以上5つにまとめられる。これに加え、最優秀賞、優秀賞の選考は、ソーシャルイノベーターに決定した7月以降の活動や事業計画書、「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」におけるプレゼンテーション、フォーラム来場者からの投票、さらにビジョンの実現をめざして行ったクラウドファウンディングの結果などを踏まえた上で最終的な審査が行なわれた。
【ソーシャルイノベーター7人】

優秀賞3人を発表

 受賞者の発表を前に、日本財団ソーシャルイノベーション推進チームの花岡隼人から、7人のソーシャルイノベーターが紹介された。2017年度のソーシャルイノベーターに選ばれたのは下記の7人。
浅谷治希氏(LOUPE Inc. CEO、founder)
安部敏樹氏(一般社団法人リディラバ代表理事)
岡 勇樹氏(NPO法人Ubdobe代表理事)
川口 良氏(一般社団法人WorkAnywhere代表理事)
小松洋介氏(特定非営利活動法人アスヘノキボウ代表理事)
仁藤夢乃氏(一般社団法人Colabo代表理事)
横山太郎氏(Indicocrea<インディコクリエ>)
 登壇した7人からは、「ここで受賞するしないに関わらず、今後もプロジェクトを推進していく」、「今回、ソーシャルイノベーターに選ばれたことで、多くの気付きがあった」、「7月以降の活動を通じてチームの仲間がさらに増え、事業もより具体化していった」との声が寄せられた。

 次に2017年度の最優秀賞、優秀賞が発表された。受賞者は以下の通り。
 最優秀賞:該当者なし
 優秀賞:浅谷氏、岡氏、川口氏
 ※最優秀賞が該当なしだったため、優秀賞は3人を選出。講評全文は記事末尾

 優秀賞を受賞した3人には笹川会長から「あなたのチームがめざすプロジェクトは社会課題の解決への期待を高く感じさせるものであり、実現すれば社会に対し大きなインパクトを与えると評価されました」と表彰状が手渡された。
 浅谷氏のプロジェクト目的は「教員の多忙化解消」だ。プロジェクト名は「日本教員多忙化対策委員会」。内容は、業務量過多で生徒と関わる時間が少なく、授業準備の時間も十分に取れていない多忙な教員が、本来の業務に専念できるように効率化を進めるというものだ。
 浅谷氏は受賞者挨拶で「ソーシャルイノベーターに選ばれたことをきっかけに、企業と一緒に議論に議論を重ね、資料も10回ほど作り直しました。おそらく7人の中で、最初に提案したプロジェクトと最後に出したプロジェクトがいちばん変化したのが僕たちだったのではないかと思います。それくらいやりきったと言えるので、こういういい結果が出て嬉しく思います。これから3年間、実際に結果を出していくためにチーム一同、力を合わせより多くの人を巻き込んでいきたいと思います」とプロジェクトを振り返り、チームや支援者に感謝を述べた。
 表彰後の講評で指摘されたのは、「この半年間の劇的な変化」。単なる成長という表現ではとらえきれない変化が優秀賞受賞の評価ポイントとなった。
【受賞の喜びを語る浅谷氏】
 岡氏のプロジェクト目的は「子ども視点で小児医療・療育を革新する」ことだ。プロジェクト名は「Digital Interactive Rehabilitation System (デジリハ)」。内容は、デジタル技術を活用した子ども向けリハビリテーションを日本や世界の病院に展開していく。システムの開発には、病院で過ごす子どもたちとキッズプログラミング教室に通う子どもプログラマーが専門家の監修のもと恊働している。
 講評では「本来の目的であるデジタルリハビリテーションに加え、子ども同士でプログラミングをして課題を解決していくという新しい発想、その仕組を実装していこうという姿勢が大きかった」と評価のポイントが語られた。
 表彰状を手にした岡氏は「8年間、活動をしてきましたが、今回、はじめてこの支援制度に応募させていただいたことで、自分たちに何ができて、何をすべきかということがあらためてわかりました。この先も日本財団の期待を超えるようなプロジェクトになるようにどんどんプロジェクトを育てていければと思っています」とプロジェクトの展望を語った。
【受賞の挨拶をする岡氏】
 3人目の受賞者である川口氏が取り組んだプロジェクトは、「場所と時間に縛られない自由な働き方を創る」といった「働き方改革」だ。「CONTINUUM – コンティニュアム」をプロジェクト名に、コミュニケーションツールの革新や空間をつなぐ技術の開発によって、地方や家にいながら遠隔で負荷なく働ける労働環境をつくる。そして東京を中心とした過度な大都市化、長い通勤時間、衰える地方経済、働く母親などのさまざまな社会問題の解決を目指している。
 川口氏は「自分たちのプロジェクトは、ゼロから技術を開発して、最終的に市場に届くのに1年、2年とかかるかもしれないものです。このようなプロジェクトに支援の手を差しのべてくださったことに感謝いたします。社会問題の現場では、助成金を使って技術をゼロから開発していく、といったケースはほとんどなかったので、この受賞は歴史的な瞬間だと思えますし、これが意味することをしっかりと噛みしめてこれからも頑張っていきたいと思います」と受賞の喜びを語った。
 講評では優秀賞の決め手については「新しさ」だと明かされた。社会問題の解決のためにテクノロジーを開発するという挑戦には大きな可能性が秘められており、その点が評価された。
【日本財団、支援者への感謝を述べる川口氏】

表彰式直前まで審査は難航

 表彰式の最後には、講評に立った日本財団の荻上健太郎経営企画部長から「今回の審査は本当に難航しました」と審査の経緯が明かされた。そのため、本来ならば数日前に決定するはずの受賞者が、表彰式開催直前に至るまで発表できなかった。
 最優秀賞が該当者なしで終わった理由については「このソーシャルイノベーター支援制度のあり方を考えたとき、先のわからない未来に対して、もっとわくわく感やドキドキ感、パワーや希望といったものを突き抜けたところで感じさせてくれるプロジェクトがあってもいいのではないかという結論に至った。それと同時に、この支援制度をもっと高みに持っていくため、今回は該当者なしとさせていただきました」と今後に対する期待を込めての判断だったと話した。
【講評を語る日本財団経営企画部長の萩上氏】
 冒頭の挨拶のなかで「志を持って社会のために働きたいという方々に賞という形で優劣をつけなければならないというのは矛盾しているかもしれません」と語った笹川会長。「選にもれた方々も、これを機会にさらに日本財団との関係を深めていただきたいと思います」という言葉でソーシャルイノベーターたちにエールを贈った。

受賞者3人の講評

浅谷治希(あさたに はるき)
LOUPE Inc. CEO、founder
■プロジェクト名
「日本教員多忙化対策委員会」
■講評
学校教員の多忙という課題に対し、同団体の運営する教員向けSNSでの知見・ネットワークを活用し、広く社会からの共感を獲得しながら、有効な解決策を提示することが期待できる。教育システム全体にまで影響を及ぼせるかが今後の課題。

岡 勇樹(おか ゆうき)
NPO法人Ubdobe 代表理事
■プロジェクト名
「Digital Interactive Rehabilitation System(デジリハ)」
■講評
審査要件である事業計画、遂行力、チーム組成力、社会への発信力をバランスよく備えている。リハビリだけでなく、プログラミング教育への波及効果も期待できる。デジリハ定着に向け、医療現場への実装だけでなく制度化までにつなげられるかが今後の課題。

川口良氏(かわぐち りょう)
一般社団法人WorkAnywhere 代表理事
■プロジェクト名
「CONTINUUM – コンティニュアム」
■講評
教育・医療・福祉など技術の応用可能性が高い。技術実現に導くための通信・映像・音響・建築等において高い実績と知見を有する国内外のメンバーが充実。競合環境での普及、社会からの共感獲得が今後の課題。


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